高市早苗総裁誕生の話題で書きそびれていましたが、総裁選前日の10月3日、栗原渉衆議院議員の政経セミナーが盛大に開催されました。
栗原先生のご挨拶をはじめ、来賓の皆様のお話はいずれも示唆に富む内容でしたが、特に印象に残ったのが小野寺五典 前自民党政調会長(元防衛大臣)による講演でした。ぜひ皆さんと共有させていただきます。

現代の安全保障と「認知戦」
講演のテーマは「現代の安全保障」。その中でも特に印象的だったのが、「認知戦(Cognitive Warfare)」という、目に見えない新たな戦いの実態でした。
小野寺氏はまず、アサヒビールが受けたサイバー攻撃やウクライナ侵攻の事例を挙げ、戦争の形が「ハイブリッド戦」へと進化していることを説明しました。
サイバー攻撃によって通信やGPSが妨害され、国家機能そのものが麻痺する――。物理的な戦闘よりも、情報空間の掌握が勝敗を左右する時代になっていると指摘しました。

「戦わずして勝つ」認知戦の恐怖
さらに踏み込んで語られたのが「認知戦」です。
これは、国民の考え方そのものを変えてしまう戦いであり、「戦わずして勝つ」ことを目的とする、極めて高度で静かな戦争です。
特に危険視されたのが、生成AIの悪用です。
小野寺氏は、中国製の生成AI「DeepSeek」に「尖閣諸島はどこの領土か」と尋ねたところ、「中国の領土だ」と回答した事例を紹介しました。こうしたAIが世界中で利用されれば、意図的に作られた“誤った真実”が国際世論を侵食していく危険性があります。
アメリカでは既に政府機関で中国製AIの使用を禁止していますが、日本はまだ十分な対応を取れていないのが現状です。
日本語情報の「AI汚染」構造
小野寺氏はまた、生成AIの学習データがすでに汚染されている現状にも警鐘を鳴らしました。
中国などが日本語の不自然な偽ニュースサイトを多数立ち上げ、それらがAIの学習データとして取り込まれているというのです。日本の研究者による調査では、少なくとも30以上の偽ニュースサイトが確認されており、そこに掲載される偏った情報が、世界中のAIに“日本語情報”として吸収されています。
一方で、日本の大手新聞社や通信社など、信頼性の高い情報源は記事の肝心な部分を有料化しています。AIは有料記事の内容を学習できないため、結果として“無料でアクセスできる”偽ニュースの方ばかりを吸収してしまう構造が生まれています。
つまり、「有料化によって正しい情報がAIから遠ざかり、偽情報がAIの主流になる」という逆転現象が起きているのです。
情報の歪みが国家を揺るがす
この情報環境の歪みこそ、まさに「認知戦」が成立する土壌です。
AIを通じて流布される歪んだ言説が、私たちの判断や価値観を静かに侵食し始めています。利便性の裏で、国家の意思形成そのものが揺らぎかねない状況にある――。
小野寺氏は、「日本が独立国として存在感を保ち続けるためには、日本独自のAIを開発し、情報の健全性を監視する体制を整えることが急務だ」と結びました。
AIが日常に浸透した今、私たちの思考や感情もまた、見えない戦場の一部になっていることを、改めて強く意識する必要がありそうです。
