平成25年2月議会一般質問「伝統産業のレッドデータ」

3月15日頃から公式動画にて質問内容と知事答弁が動画で確認出来ます。
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◯十一番(板橋 聡君)登壇 先ほどの黙祷により、震災復興への思いを皆様とともに新たにさせていただきました。皆さん、ともに頑張りましょう。自民党県議団の板橋聡でございます。
 福岡県では、絶滅の危機にある野生生物をリストアップし、保護や保全に結びつけることを目的としたレッドデータブックを作成しておりますが、今回は、伝統産業のレッドデータというテーマで質問いたします。
 みやま市には木ろうと天然しょうのうという伝統産業が存在します。ハゼの木の実から生産される木ろうは、ろうそくや医薬品、化粧品の原料として幅広く使われ、徳川吉宗が一七一六年に行った享保の改革でハゼの木の栽培が奨励されると、柳川藩、久留米藩、福岡藩を初めとする国内多くの地域にて競って栽培されました。幕末の久留米藩を例に挙げますと、久留米絣の生産高九万両に対し木ろうは三十六万両、輸出高は種油に次ぐ二位と、ハゼの木が生む木ろうは財政を支える重要な産物でした。一方、クスの木から生産される天然しょうのうですが、日本では一七〇〇年ごろから生産が始まり防虫剤として有名でしたが、海外では薬品や香料として重宝されました。江戸末期には木ろうと並んで薩摩藩、土佐藩を初めとする多くの藩の財政を支え、貿易で巨額の富を生み、日本専売公社の報告には、この資金によって維新の大業をなし遂げられたと評されています。その後しょうのうは、土佐が開発した土佐式と呼ばれる製法で飛躍的に生産が伸び、しょうのうを材料とするセルロイドの発明により世界市場で日本のしょうのうが引っ張りだことなり、この貿易取引がもたらした富によって賄った軍艦が、日露戦争においてバルチック艦隊を打ち破るのです。かようにアジアの端っこの閉ざされた小国だった日本が国際社会に名乗りを上げ、開化期を迎え、そして西欧列強の植民地支配に一矢を報いることを財政面で支えたのが木ろうと天然しょうのうなのです。しかし、そんな隆盛を誇った木ろう、しょうのうは、石油由来の化学製品によってその地位を追われ、今では木ろうの生産工場は国内わずか四カ所。天然しょうのうに至っては、土佐式製法を継承している工場は何と世界でただ一カ所となってしまいました。それぞれの工場が福岡県みやま市に辛うじて現存しているわけです。
 ここで視点を変えましょう。地球温暖化など環境の変化や、外来種の移入により地域の生態系のバランスが壊れ、絶滅の危機が危ぶまれる動植物が増加しています。これを守る努力が必要なのは持続可能な社会を構築するためにもはや常識であります。私は、日本の歴史の転換点にかかわり、地域の暮らしや文化を担った伝統産業が、時代の変化、イノベーション、経済のグローバリズムで移入してきたどうもうな外来産品、外来企業などにより先細り、まさに絶滅の危機に瀕している様子を見るにつけ、動植物の生態系の破壊を目の当たりにしているような思いであります。
 ここで知事に質問です。このような希少価値の高い伝統産業は、一度途絶えてしまったら復活することは非常に困難です。歴史や伝統に根差し、郷土愛をはぐくみ、地域に活力を与えてきた、つまり知事が繰り返しおっしゃる、福岡に生まれてよかったという意識を醸成する観点からも、希少価値の高い伝統産業は維持、振興されるべきと考えますが、知事の所見をお聞かせください。
 また、みやま市に限らず他地域にも同様の希少価値の高い伝統産業が多数存在すると思いますが、県として市町村と協力の上、まさに伝統産業のレッドリストをつくらなければ、そもそも保護すべき対象も把握できないと思いますが、知事の所見をお尋ねします。
 保護、保護と言うと、よほど魅力がないのかという誤解を生みそうですが、私は今回の一般質問に当たり、さまざまな部署とお話をさせていただきました。そこでわかったのは、予想外に多くの部署が伝統産業にかかわっているということです。例えば木ろうについて、農林水産部では、木ろうの原料であるハゼ栽培に対し中山間地支援や農家所得向上の視点から、今年度より助成事業を行っています。商工部では、産業観光の一つとして木ろうメーカーである荒木製蝋がエントリーされています。それ以外にもハゼの紅葉が地域観光資源になったり、現在全生産高の九〇%が輸出される木ろうが県産品輸出振興の対象となる可能性もあります。企画・地域振興部では、まちおこしの視点からちくご元気計画においてみやま市の木ろうを取り上げています。またこの木ろう工場は、現在地元小学校が社会科見学で訪れており、教育の視点からの活用や文化財指定などの対応から教育庁のかかわりも期待されます。
 これだけ多くの部署が少しずつかかわっている、あるいは今後関与する可能性を認識しているということは、やはり伝統産業の持つポテンシャルは、いわゆる商業的成功にとどまらず、県民幸福度日本一の施策にさまざまな側面で可能性を秘めていると言えます。一方、これらの部署は全く連携がとれておりません。当初、伝統産業の総合的な振興について各部署に相談したところ、見事にどの部署も、ここまでは私どもがやっておりますが、これこれは他の部署でやっておりましてと見事にたらい回しを食らったわけです。小川知事におかれましては、このような縦割り行政に関する弊害是正について理解を示し、改善の努力をされていると私はひそかに評価しています。就任後わずか二年の中で、農林水産部、環境部、保健医療介護部にまたがっていた鳥獣被害対策を畜産課に一本化されたり、中小企業の海外進出をワンストップで支援するアジアビジネスセンターを、これは県が運営すべきかどうかについては議論の余地があると思いますが、設立されたりしました。特筆すべきは、新社会推進部において今年度始まる性犯罪被害者に対するワンストップ支援推進事業です。これは性犯罪被害者が相談窓口、医療、司法、警察などの各機関で繰り返し説明させられることによる被害者負担を軽減させることが目的の一つです。まさに、たらい回しを防ぐ県民視点の事業であります。
 そこで知事に質問です。伝統産業の担い手、その維持、振興を目指す市町村は、知恵、経験、人、金が不足しています。やはりここは県においてノウハウを蓄積し、総合的な対策を打つことが重要です。そのためにも、まずは全体を俯瞰して情報の交通整理ができるワンストップの窓口をつくるべきと思いますが、知事の所見をお聞かせください。
 以上、知事のリーダーシップあふれる答弁を期待して、私の質問を終わらせていただきます。(拍手)

◯議長(松本 國寛君) 小川知事。
*知事答弁

◯知事(小川 洋君)登壇 お答えを申し上げます。
 木ろうなどの伝統的な産品についてでございますが、御指摘のありました木ろう、天然しょうのうなどの産品は、長い年月にわたりまして人の手を通じて技術、技法が後世に受け継がれ、地域の歴史、風土を今に伝えるものでありますけれども、一方で、生活様式の変化、あるいは安価な輸入産品の増加によりまして需要が減少している状況にございます。しかしながら、近年こうしたものは天然の素材を用いた環境に優しい製品といたしまして、再評価をされ出しております。このため、木ろうを化粧品の原料として海外に輸出をしたり、しょうのう製造時に発生いたしますクスノキ油をアロマオイルとして発売するなど、新しい販路拡大、製品の開発につなげていく取り組みというものが、これからますます重要になるというふうに考えております。
 これらの伝統的な産品の実情把握についてお尋ねがございました。本県では、五十年以上の歴史を有する伝統的な技術や技法により生産されました産品を対象にいたしまして、申請に基づいてこれらを特産民・工芸品として指定する制度というものを設けております。八女手漉和紙でありますとか、うきは市の棕櫚箒など、現在三十品目を指定させていただいておりまして、その振興を図るため、県庁あるいはアクロス福岡での展示、PRに努め、県のホームページでも広く情報提供しているところでございます。今後は、この指定制度の周知徹底というものを図りまして、新たな指定品目の掘り起こしを市町村と協力して積極的に行っていきたいと考えております。木ろうや天然しょうのうなど希少性の高い伝統的な産品につきましても、その実情を把握するよう努めてまいりたいと考えております。
 次に、木ろうなど伝統的な産品の支援窓口の一元化についてでございます。今申し上げました産品につきましては、例えば木ろうの場合、和ろうそくの製作体験に人が集まるということで産業観光、あるいは地域活性化の資源となりまして、ハゼや木ろうを使った六次産業化の素材ともなります。県では、このように、先生もお触れになりましたけれども、それぞれの部署がそれぞれの政策目的に応じて支援を行っているところでございます。これからは、先ほども申し上げました特産民・工芸品の振興を担当いたしております商工部中小企業振興課をワンストップの窓口といたしまして、各部署との連携を図りながら、またそこにノウハウを蓄積しながら、伝統的な産品の支援に努めてまいります。