【こども・子育て支援調査特別委員会管外視察 広島・島根】

【こども・子育て支援調査特別委員会管外視察 広島・島根】
福岡の県議会議員は常任委員会と調査特別委員会の二つの委員会に所属します。私が所属するこども・子育て支援調査特別委員会の管外視察で広島県と島根県を訪問しましたので備忘録代わりにレポートします。
今回の視察は少子化対策について先進的な取り組みをしている中国地方の4自治体を訪問しました。私自身、議会に於いて少子化対策については何度も質問しておりますが、他自治体の施策や目標設定などに詳しく触れる事で、地域特性により色んなやり方が有ることを実感し、目から鱗の視察となりました。

○ 広島県:イクボス同盟ひろしま
広島県では女性活躍と保育をセットにして対応する「働く女性応援課」があります。女性活躍の課題として、女性は結婚・出産を機に離職する方が多く、25ー44歳の就業状況が低くなる、所謂「M字カーブ」の解消を目指しています。

その中で広島県は女性の働き方について大変保守的らしく、先ずは職場環境を変えていくために「イクボス」の普及拡大に力を入れています。

広島県の湯﨑知事は、自らが子育て真っ最中の世代。末っ子さんの誕生を切っ掛けに都道府県知事初の「イクボス宣言」。その後、海上自衛隊呉地方総監、広島県警本部長などの御歴歴を巻き込み「イクボス宣言」が行われました。その流れの中で、男女ともに働きやすい職場づくりを目指す経営者の集い「イクメン企業同盟ひろしま(現在は『イクボス同盟ひろしま』)」が結成されました。メンバーは結成時20人から平成28年7月時点で114人に。

プロモーションビデオ「イクボス野球団」作成はじめ、社会全体の男性の意識改革や行動変容を即すための活動を行われています。

また、湯﨑知事は都道府県知事として初めて育児休暇を取得し大きなニュースになりましたが、県としても「いきいきパパの育休奨励金」として男性従業員が一週間以上の育児休暇等を取得した中小企業事業主に対し10〜30万円までの奨励金を支給。こういった施策もあり、他県と比べて倍以上の男性育児休暇取得率(全国平均2.3%、広島県5.1%)を実現しています。

トップリーダーである知事がまさにイクメン真っ最中であり、実体験に基づく理解が功を奏してか、広島県ではイクメン・イクボスの浸透は知事のリーダーシップにより進んでいると感じました。

○ 島根県邑南町(おおなんちょう):日本一の子育て村構想
ここはインパクトがある視察でした。

邑南町は2004年に2町1村が合併して誕生、島根県中央部の広島県との県境に位置する中山間地で、人口は僅か11,294人(平成28.3.1現在)、高齢化率42.5%。高齢過疎化中山間地のイメージそのままの自治体ですが、平成22年度に過疎地域自立促進計画を策定(1)攻めのA級グルメ構想、(2)守りの日本一の子育て村、(3)徹底した移住者ケア、の3点を柱とした「攻めと守りの定住プロジェクト」を立ち上げました。

その結果、平成26年度の合計特殊出生率が2.07人(平成24年度はなんと2.65人!)、平成22年度から27年度までの移住者が合計262人(内、59人が児童)、平成25年からは3年連続で社会動態(転出と転入の差)がプラスに転じるなど目覚ましい成果を上げています。

邑南町の成功の秘訣は、多くの自治体が一昨年の増田レポートから躍起になった人口減少社会対策より一歩先んじて対応を始めたことと、高齢化の町にも関わらず徹底した子育てに関する経済的負担の軽減施策にあると感じます。

例えば、中学校卒業まで医療費が無償、保育料は第二子目以降は第一子の年齢に関わらず完全無料、病児・病後児保育の充実、邑南町にある県立高校への寮費・バス通学定期への補助、ネットを利用して補習授業の講師に現役東大生、医療福祉資格取得・農林業後継者育成・奨学金に関しては将来的に邑南町で働いたり定住すると償還免除となる制度などなど。よくまぁここまで徹底したなぁと感心します。子育て支援関連事業にはおよそ9億円の事業費が充てられており、人口11千人の町にはちょっと大きすぎる気もしますし、実際当初は議会の反発もあったそうですが、着実に結果を出している事で、現在は理解を得られているそうです。財源には過疎対策事業債を最大限活用、邑南町日本一の子育て村推進基金を造成するなどして対応しています。

現在邑南町には各種自治体からの視察が相次いでおり、視察受入の条件は町内で宿泊するか食事をする事となっているそうです。それだけの成果を上げている邑南町、今後の推移にも注目していきたいと思います。

○ 島根県議会:島根県総合戦略〜結婚・出産・子育ての希望をかなえる社会づくり
島根県議会に到着するのが約束の時間より大幅に早かったもので、隣にある物産館を覗くとそこには「島根か鳥取か分からないけどそこら辺に行きました」という衝撃的なネーミングのお土産が。そんな自虐ネタが売りになるほど知名度が今一つで、おそらく過疎化にも苦労をされているのだろうなぁと視察に伺うと、いやいやどうして、素晴らしい少子化対策を行われていました。

島根県は平成15〜16年に合計特殊出生率1.48と歴代最低の値を記録し、国が制定した少子化社会対策基本法(H15年)大綱(H16年)に併せて人口減少対策を開始しました。当初は「少子化対策推進室」を担当部署としていましたが、そこに子育て支援等の機能も取り込み現在では「子ども子育て支援課」に格上げして活動しておられます。

その結果、合計特殊出生率は平成17年以降増加傾向にあり、平成27年度は1.80で沖縄県に次いで全国2位。また出生数も緩やかな下降で踏みとどまり、平成23年以降は5500人台でほぼ横ばい傾向にあります。また婚姻数も同様に約3000件で横ばい。島根県では毎年約5000人、人口が減っていく中、大健闘していると言えます。

親となる若い世代の減少、未婚・晩婚化の進行、子育て環境の変化や負担感・不安感の高まりなど、様々な少子化の背景・要因が有る中、県としては少子化対策の一丁目一番地として「どれだけ家族を増やせるか」を掲げ、結婚支援・子育て支援・仕事と子育ての両立支援に様々な施策を打ち立てていらっしゃいます。

島根県で大変参考になったのは、非常に具体的で明解な目標設定をされている事です。例えば、県が運営する「しまね縁結びサポートセンター」を通じた結婚数 150件/年、とか、合計特殊出生率1.7、とか。普通はこういう数値目標、しかも逃げも隠れも出来ない数値を具体的に目標にすることは役人は嫌がります。実際福岡県では地方創生総合戦略において似たような施策を掲げていますが、その目標設定において合計特出生率は使用せず『県民が「理想とする子どもの数」と「実際に持つつもりの子どもの数」の差を縮小する』とか、結婚数とは言わずに『福岡県が実施する出会い・結婚応援事業による出会い応援イベントへの参加者数を 10,000 人/年(H31 年度)』という目標設定をしています。

やはり、目標設定の仕方で、その後の施策の細部は変わってくると思いますので、誰にも明確で分かり易い目標設定をした島根県の英断を評価したいと思います。執行部からの説明を聞いていても明解で分かり易かったと特別委員会メンバーにも評判でした。

○ 松江市役所:子育て環境日本一実現プロジェクト
リオオリンピック男子テニスで日本勢96年振りとなる銅メダルを獲得した錦織圭選手は松江市出身。松江市役所の入口には大きな垂れ幕が3つ、錦織選手を応援してました。松江市民もさぞ盛り上がっている事でしょう。

松江市も島根県全体における傾向と同じく、若者の人口流出や未婚・晩婚が進んでいます。平成27年に松江市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン第一次総合戦略では、5つの基本目標、10の重点プロジェクトそしてそれにぶら下がる施策を策定した上で、これを「市民運動」と定義。行政主導ではなく、市民を巻き込み、「出生数2000人/年」「平均270人/年の社会増」という二つの挑戦を定義、実現を目指します。

この発想には大いに共感します。人口減少問題で一番ネックになるのは、結婚や出産は極めて個人的な問題でもあり、行政主導で目標を立てることに違和感があるのも否めません。やはりより良い社会を次世代に繋げる為には、行政だけでなく、我々住民自身が積極的に関わる事が必須です。

また松江市では5歳児検診を行っています。普通は3歳児検診ですが、近年増加している発達障害児の早期発見において5歳児検診は大変有効とされており、松江市が設立した発達教育指導センター「エスコ」と緊密に連携し、一次・二次検診を実施するなど充実したサポート体制を構築しており大変参考になりました。

余談ですが、視察の時は早朝ホテルの近所を散歩するようにしています。宍道湖、中海、そして松江城のお堀など豊かな水に囲まれる松江市の街並みは情緒があり大変素敵でした。島根県初上陸でしたが、出来る事なら家族でゆっくり観光に訪れたいなぁ。