【国際交流推進議員連盟 オーストラリア視察】
私が副会長を務める国際交流推進議員連盟にて、昨年に引き続きオーストラリアを視察してまいりました。今年はニューサウスウェルズ州政府からの招聘状を頂き、小川洋知事はじめ執行部の皆さんもご一緒頂きました。
福岡県には5つの外国領事館が有り、外交拠点としてそれぞれの国の地域と友好提携を結んでいますが、オーストラリアだけは友好提携を結んでおらず、昨年に引き続き、その可能性を探るために、ニューサウスウエールズ州((以下、NSW州)シドニー、カウラ)とキャンベラ首都特別地域を、8月1日〜7日まで4泊7日(!)の強行軍で訪問してきました。備忘録代わりに纏めておきます:
○ ニューサウスウェールズ・スポーツ研究所(NSW Institute of Sports, NSWIS)
2000年にオーストラリア・シドニーオリンピック・パラリンピックが開催されたのを覚えていらっしゃいますでしょうか?高橋尚子さんがマラソンで女子アスリート初の金メダルを獲得した大会です。
NSWスポーツ研究所ではオリンピックをはじめとする世界大会でのメダリスト育成を目指すため、タレント発掘事業を行っています。福岡県においても「福岡タレント発掘事業」として平成16年度より体力・運動能力に優れた小中学生を見出し世界で活躍出来るトップアスリートの輩出を目指しており、スポーツ分野での相互交流の可能性を探りました。
NSWでは「優秀なアスリートの前に、優秀な指導者が必要」との信念の下、タレント発掘事業で見出した優秀なアスリートを、優秀なコーチがいる競技に移動させ、現在はボートと自転車競技においてこの手法は成功を収めているとのこと。
オーストラリアはロシアや米国と違って、競技数を絞って複数のメダルを獲得する方針で、特に競技を絞り込むにあたっては、その競技にカルチャーや伝統が地域に存在することを重要視しているそうです。例えば格闘技系などはオーストラリアには伝統がないので弱いとの事。
私からは日本とオーストラリアは季節が逆である事をメリットに、日豪のスポーツ交流の可能性がないか質問しました。モチベーションを維持するという意味で、練習環境を変えるのは重要ではあるが、それよりもオーストラリアでは高地トレーニングをする場所がないため、そちらのニーズがあるとの事。また、日本には競輪文化があるが、オーストラリアには無いため、競技のスキルアップという観点で自国に無いスポーツ文化を取り入れるのは有効であるとのコメントを頂きました。
会談後、研究所内のトレーニングルームを見せて頂きましたが、そこではアスリートとパラアスリートが一緒に練習をしていました。日本では観ることが殆ど無い光景に「パラアスリートとアスリートではトレーニング内容が全然違うんじゃないか?」との疑問も出ましたが、それには「ここでは個人個人に特化したトレーニングメニューを作成しているから、パラアスリート・アスリートの違いは問題じゃない」とさらりとお答え頂きました。日本では日本オリンピック委員会と日本パラリンピック委員会は別組織でありますが、NSWでは一つの組織であることも、こういうちょっとした風景に現れるのかも知れません。
○ NSW州政府、カンタス・ジェットスター航空
スケジュールの都合からNSWIS視察組と別に上記への表敬訪問が行われました。
NSW州政府ではスチュアート・エアーズ 雇用・投資・観光・西シドニー担当大臣、カンタス・ジェットスター航空ではそれぞれのCEOのナレンドラ・クマール氏、ギャレスエバンス氏にご対応頂き、福岡県との友好に向けての相互交流やオーストラリアから福岡空港への直行便の復活を要望しました。
○ 戦争記念館
シドニーから空路で首都キャンベラに移動。
祖国の為に命を捧げた豪州兵士に対する国家としての敬意を具現化する戦争博物館には、これまで豪州が関わってきた全ての戦争に関する記録・文献などが保管・展示されています。
中心になる追憶の堂の前には不戦を誓う炎があり、厳粛な気持ちにさせてくれます。
第一次世界大戦の時は連合国側で共に戦った日豪ですが、第二次世界対戦時は敵味方に分かれ、日本は太平洋を南下し、オーストラリアまで戦線を拡大した過去もあり、ゼロ戦やシドニー湾を攻撃した特殊潜航艇などの展示があります。
シドニー湾攻撃により多大なる損害を受けたオーストラリア軍ですが、特殊潜航艇に乗って自爆した日本兵4名について海軍葬を行い礼を尽くします。豪州国内からは批判の声も上がったそうですが、豪軍少将は「片道の燃料しか持たず、このような鉄の棺桶で敵陣に向かうのは最高の勇気が必要だし、それは彼らが愛国者である証しである。非難があるのは承知しているが、もし我が国兵士が彼らのような勇敢な死を遂げたときには、同様の名誉ある処遇を受けさせられたい」と述べたそうです。
過去の不幸な歴史を乗り越えて日豪関係が構築されてきたことのヒントを感じました。
○ 国会議事堂
オーストラリアは立憲君主制・連邦制で、イギリス国王がオーストラリアの国王も務めます。つまりエリザベス女王がオーストラリアの国家元首でもあるということ。実際はオーストラリア総督が置かれ、その代理を務めますが、その権限は儀式的な事に限られるそうです。
上院・下院の二院制で、下院で過半数を得た政党が政府を組織します。
選挙権は日本と同じく18歳以上の国民に与えられるのですが、大変面白いのは、投票が罰則により強制される事です。具体的には十分な理由無く投票を怠ると20ドルの罰金が科せられます。更に、その罰金の納付を怠ると財産の差押えや懲役刑が科せられる可能性もあるとの事。ですから投票率は90%を超えることもあるそうです。凄いですね。
○ カウラ事件75周年戦没者慰霊式典
キャンベラからバスでカウラ市を訪問。昨年も書きましたが、カウラ市は1944年8月5日にカウラ事件と呼ばれる日本兵士捕虜の大脱走事件が発生し、日本人234名、オーストラリア人5名(日本人231名、オーストラリア人4名との説もあり)の犠牲者を出しました。捕虜収容所の脱走事件としては史上最大規模。その後、両国の戦没者墓地や、追悼の日本庭園が造園されています。
今年はカウラ事件から75年ということもあり、4日間かけてパレードや各種式典が日豪協会や同じく捕虜収容所のあった新潟県の関係者をはじめとする多くの関係者の参加の下に開催されました。
事件当時の捕虜で、唯一の生存者となった鳥取市の村上輝夫さん、御年99歳、も御家族と共に参列され式典は大いに盛り上がりました。
クライマックスは8月5日午前2時、ちょうどカウラ事件が起こった時刻に捕虜収容所跡地にて行われた記念イベント。
現地は真冬で、気温も氷点下近くになっていましたが、厳かな雰囲気の中、カウラ市民をはじめ100名以上の皆さんが参加されて開催されました。事前に日本で放送されたカウラ大脱走事件をテーマにしたドラマを観ていましたので、その当時にスッと想いを馳せる事が出来ました。ご興味のある人は是非↓
「あの日、僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった-カウラ捕虜収容所からの大脱走-」
九州電力の元会長永倉三郎氏が、石炭の契約でオーストラリアを訪問中に偶然カウラを訪れる機会を得て、その際カウラ市民がカウラ事件で亡くなった日本人戦没者墓地が大切に世話をされている事を目の当たりにし、非常に心を打たれ、自ら永倉財団を設立し、捕虜収容所近くに永倉三郎公園を作るなど日豪友好に尽力をされました。今回の訪豪にはその御子息である永倉成二氏もご一緒頂きました。
○ シドニー福岡県人会との意見交換会
カウラからバスで約5時間、またシドニーに戻り、シドニーでご活躍の福岡県出身者や福岡に縁のある方々で構成される「シドニー福岡県人会」の皆さんと交流。
昨年に引き続きの意見交換会ですが、八尋会長はじめ約20名の皆様にご参集頂き、昨年もご参加頂いた方もいらっしゃり大変盛り上がる会になりました。とにかく皆さん福岡が大好きな方ばかり。是非、これから県とNSW州が交流を深めるにあたり、お力添えを賜れればと存じます。
○ JETROシドニー
日本貿易振興機構(JETRO)シドニー事務所 高原所長よりオーストラリアの最新経済動向についてレクチャー。28年間景気後退がなく、3年で約100万人人口が増えており、GDP中消費が70%を占める健全な経済成長を続けるオーストラリアについて、貿易、物価、政治、対豪投資、日系企業進出実態などの側面から、現地に居なくては分からないような情報含め、大変丁寧にご説明を頂きました。
○ JNTOシドニー
海外に22拠点を持ち、日本におけるインバウンド観光のプロモーション等を行う 日本政府観光局(JNTO)シドニー事務所 田中所長よりオーストラリア・ニュージーランドの訪日観光についてレクチャー。
経済成長と好景気を背景に、オーストラリアの海外旅行者数は堅調に増加しており2018年は年間11百万人を超えました。体験型重視で、ハイキングや地元の人と触れあえるアクティビティが人気で、出来合いのもので無く我々が普段やっているような活動をしたがるのが特徴との事。
訪日するオーストラリア人旅行者はニュージーランド・インドネシア・米国・英国などに続いて7番目の年間46万人程度ですが、前年比17%増と成長しており、特に、オーストラリアの夏休みに日本でスキーを楽しむ方々や、秋休みに桜を楽しみに来る方が増えています。
また、1人当たり旅行支出額が242千円と全市場中第一位で、平均泊数が13.3泊というのも全市場平均9.0泊を大きく上回っており、オーストラリアの訪日客は「消費額が高く、滞在期間は長く、閑散期に訪日してくれる優良顧客」と位置付けられています。
一時期シドニー〜成田便しか直行便が無かったのですが、この5年間で直行便の数は9便に増えたことも、最近のオーストラリア人訪日客が増加している大きな要因と考えられます。
福岡においてもやはり直行便が出ることがオーストラリアとの距離を縮めるには大変重要であります。
以上、駆け足になりましたがオーストラリア視察の備忘録です。
今回の視察が福岡県とNSW州の友好関係を深め、県政振興に繋がるよう、今後の活動に活かしていきたいと存じます。
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