Twitter、Facebookの積極的活用をはじめ、震災がれき受入表明などで全国的に有名な佐賀県武雄市の樋渡啓祐市長。
個人的に市政にかける情熱、歯に衣着せぬ物言い、思い立ったらまず行動に移すスピード感に敬服しております。しかしながら本日のブログにある下記の発言は議会の立場からすると看過するわけにはいきません。
地方議会。あまり知られていないんですが、この議会なるもの。強大な権限があります。それは「議決権」。首長には決定権というのは無いんですね。あるのは、役所の人事を除けば、政策の提案権だけ。決めるのはあくまでも議会。そして、議会の決めたこと(議決事項)を誠実に執行する義務が、首長には課せられています。これを、俗に執行権と言いますが、権利じゃ無く義務のような気がします。
引用元: 武雄市長物語 : 地方議会の工夫
これ二元代表制である地方自治の仕組みを蔑ろにするような発言です。樋渡市長自身、元総務省の官僚ですから地方議会のイロハは十分承知の上で武雄市議会に対する牽制の意味を含む発言と思いますが、今や全国区の著名人として影響力を持った方ですから発言は慎重にして頂きたいと思います。
「二元代表制」とは予算や政策の提案権者である首長(知事・市町村長)と、その提案について議決する議員、それぞれを有権者が直接選挙で選出する制度です(国会については「議院内閣制」で検索して調べてみてください)。
樋渡市長の発言通り、地方議会には「議決権」つまり最終的な決定権があります、が、何を決定する権利かというとそれは首長(市長・知事)から提案された予算・政策についてYesかNoかを住民の代表として審議・議決する権利です。
噛み砕けば、お小遣い500円の使い道を提案するのが樋渡市長、その提案を審議して承認するのが議会です。樋渡市長には「今日のお小遣いの総額は500円。ジュースに120円、週刊少年ジャンプ250円、残り130円でお菓子を買います」と詳細を提案する権利がありますが、議会にはありません。あくまで議会は住民の代表として市長や知事の提案するお小遣いの使い道について審議しそれで良いのか駄目なのかを「議決」する機能しか無いのです(厳密には提案された予算を「修正」する事も可能ですが、首長に拒否権が有り現実的にハードルが高いのでここでは端折って説明しています)。
提案権者である市長が提案した予算や政策について、議決権を持つ住民代表の議会が議決する事によってその提案は意思決定され実行されるわけです。
樋渡市長はブログで「議会の決めたことを誠実に執行する義務が首長には課せられている」と仰いますが、そもそも議会が決めるのは首長の提案を承認するかしないかなのです。また、それを「執行権と言いますが、権利じゃ無く義務のような気がします。」と仰いますが、自分で提案したことを議会が承認して、それを執行することについて「権利じゃ無く義務のような気がします」というのは地方自治の二元代表制に照らしても矛盾しています。
一方で議会側も一旦自らが議決したことについては淡々と執行を見届けるのが当然ですので、当該エントリーに記載された「市民病院の民間委譲は「議決」されていたのに、一歩前に提案した私に対して、リコール。」との部分はもう少し詳細が説明されていたり、過去からこのブログの読者なら違う反応をするのかも知れませんが、このエントリーだけを読む限り上述したような想いを抱きます。
(追記 2012.5.31 8:10)
朝起きて読み直して、一部取り消し線で修正しておきます。確かに議会で議決された事は誠実に執行されなければならない訳で「権利じゃ無く義務のよう」という表現はある意味間違ってません。ただし執行する権利は首長にしかなく、やっぱりそれは「執行権」。つまり執行するのは権利であると同時に義務でもあり私の「二元代表制に照らして矛盾している」という言い方は正確では有りませんでした。単に「矛盾を感じる」と書くべきでしたね。関連した部分も取消し、お詫びして修正します。